たからもの:054


 monopoly
 近江 れん 様



 出来る事なら、見せたくない。あいつらにだって。


「せーじー!体操服貸してくれっ!」
 3限目が終わるなり、教室前方から見慣れた青い頭が叫んでいた。
「なんだ、当麻。体育は余程でなければ参加せぬと言ってはいなかったか?」
「俺らのクラス、サッカーなんだけどさ。遼に今日は必ず出ろって言われてたの忘れてて」
「遼に言われているのでは仕方あるまい。ほら、持ってゆけ」
後方にあるロッカーから取り出し、当麻へと放り投げる。
「さんきゅっ!洗って返すからさっ」
「洗うのはナスティだろうが」
「固いこと言いなさんなって。じゃあなっ」
風の如く、あっという間に走り去る当麻の後姿に軽く溜息をつき、征士は4限目の準備に取り掛かった。


「いいか?向こうはサッカー部員が2人、こっちは1人だ。こっちが勝ったら俺たち全員に昼飯おごって貰う手筈になってるから、みんな気合入れてくれよな!」
先週から始まったサッカーだが、遼率いるB班はまだ一度も勝てた試しがない。クラス全体を3班に分け残る1班は、審判などを行う。A、C両班に負けを喫し、本日A班と2度目の対戦となった。その際、売り言葉に買い言葉ではないが「勝った方が昼飯を奢る」話に乗ってしまった。
 そうなれば月末を控えた学生にとっては一大事である。懐具合だって皆一様に寒い。となれば、勝つしか術は無い。勝つには優秀な司令塔が必要。つまり、普段は幽霊の如くグランドでうだうだしている当麻に働いて貰う必要性が出てきた訳で。
 当麻自身は運動能力は悪く無い。はっきり言えば良い方である。単に持久力が無いだけで、体育の授業に命を懸ける必要もないので、その分はおつむで補えばいい、というのが当麻の主張だった。
「今日は当麻に司令塔をやって貰うから、みんなフォロー頼むな。当麻、ちゃんと指示出してくれよ!」
「任せなさいって。やるときゃやる男だぜ?俺は」
「だそうだから。さ、行くぞっ!」


 グランドの方で笛が鋭く発せられた。
遼はFW、当麻はMFとして位置を取る。試合は15分ハーフの前後半戦で行われる。
 前半3分、遼たちB班に相手の隙を突いた1点が入った。チーム内に歓声が沸き起こる。
「ナイス!橋口!!」
「もう1点いこうぜ!」
遼とツートップを組む橋口が肩を叩き合いながら戻って来るのを確認して、当麻は全体を見渡す。
 空いてるスペース、動きが甘いポイント、こちらのメンバーの長所短所を、短い時間で頭に叩き込んで次の得点へと導いてゆく。が、監督ではないので当然走り回らねばならない。遠くにいる仲間にも指示を飛ばしつつ、飛んでくるボールを捌いて行くのはなかなかに難儀だった。しかし、たまに汗をかくというのも気持ちの良いもので、当麻は高揚感を感じながら一生懸命に声を飛ばした。
「橋口!前に走れっ!!」
前半のロスタイムに入った所で、当麻がボールをキープしつつ声を出す。しかし、目の端には逆に外へと走り出す遼の姿を目認していた。目線はゴール前へと飛び出す橋口へと向けたまま、でも足元は遼の走る方向へと大きくパスを出す。そこへ待ってました、とばかりに遼が飛び出しゴールポストぎりぎりの所へシュートを放った。
「よっしゃーっ!!!」
ボールは精一杯に飛んだキーパーの指先を掠め、見事に大きくゴールネットを揺らしていた。
 ピーーーーーーーーーーーーーーッ!!
すぐ後に、前半終了の笛が響く。
 全員が玉の様な汗を流しながら、お互いを称えつつ控えのスペースへと戻って来る。
「当麻!!お前なら分かってくれると思ってた!!すっげーいいパスだったぜ!!」
遼が全身で喜びを隠し切れないとばかりに、当麻の元へと駆け寄ってきた。
「・・・ま・・・まぁ・・・なっ・・・ゲホッゴホッ」
まだまだ余裕の遼に対して、すっかり息の上がっている当麻の様子に心配になって声を掛ける。
「当麻、大丈夫か?後半下がって休んでてもいいんだぞ?」
苦しそうに肩で息を吐いている。しかし、遼のその一言が逆に当麻に火を点ける。
「冗談は・・・止せってーの。ちゃんと勝利をもぎ取ってやるよっ!・・ま・・任せとけっ・・」
「・・・そっか。じゃ、頼むなっ」
「・・おう」

 後半戦、当麻は予告通り、さらに追加の2点をもぎ取る的確な指示とパスワークを見せ、A班から圧勝してみせた。試合終了の笛が鳴り響き、みんなの顔に悲願の笑みが浮かぶ。
「やったー!!昼飯ゲットォォォッ!!」
「初勝利だよー!ばんざーいっ!!」
あちこちでB班のメンバーが抱き合って喜びあう中、当麻は視界に遼が飛び込んでくるのを確認した。
「とーまっ!!やっぱお前ってばスゴイ!!」
駆け寄るなり、抱き上げるように当麻へ腕を回し高く持ち上げる。途端真っ赤になって抗議をする当麻の様子に、可笑しそうにしながらそっと降ろしてやると、そのまま一気に当麻の体が崩れ落ちた。
「えっ!?と、当麻っ!!」
「遼・・・も、限界・・・・・・」
くったりと体を遼に預ける当麻を慌てて抱え直す。
「しょうがないなぁ〜。ほら、保健室連れてってやるからおぶされよ」
慣れた手付きで当麻を背中へとおぶさり、両腕をしっかりと自分の首へと回させる。当麻はと言えば、遼に為されるがままに顔を肩口へと埋めていた。
「俺、当麻を保健室に寝かせてくるから。悪いけど誰かコイツの着替え持ってきてくれないか?」
「いいぜ〜。俺が後で持ってってやるよ」
一人が手を挙げたのを見て、遼は目的の場所へと歩き出す。
「真田ぁ、途中代わろうか?重いっしょ?」
歩きながら擦れ違うクラスメイトが、両手にボールを抱えたまま話し掛けてきた。
「ん?平気だよ、当麻軽いし。いつもの事だから慣れてるし。ありがとな」
「慣れてるって…羽柴お前よりタッパあるじゃん」
口をあんぐりと開けたままの友人をそのままに、遼はニコッと笑ってまた歩を進めて行った。


「失礼しまーす。って、先生いないのか?」
鍵は掛かっていなかったが、室内に養護教諭の姿はなかった。取り立てて気にも留めず、遼は当麻を背負ったまま簡易ベットへと近づいた。2つあるベットはどちらも先客が無かったので、窓際の方のベットの布団を捲り当麻をそっと降ろす。遼の首に緩く掛かったままの両腕をそっと外し、煩そうに汗で張り付いた前髪を掻き揚げてやると、擽ったそうにほんの少し当麻は眉間に皺を寄せた。それを愛おしそうに遼は眺める。起きるかな?と心配したが、そこはやっぱり当麻で。
「ほんと、無防備な奴」
 安心しきった子供の様に眠る当麻の顔が、遼は大のお気に入りだった。柳生邸で眠ってしまった当麻を率先して部屋に運びたがるのも、この寝顔を独占していたかったからで、出来るものなら他の仲間にだって見せたくは無い。誰にも言ってはいないけど、伸辺りは気付いているかも知れない。
「弟とかって、こんな感じなのかな」
髪を梳いてやる遼の手を、気持ち良さそうに受けながら眠る当麻の顔を覗き込んでみる。薄く開いた口元からは、柔らかな寝息が聞こえている。
 そっと。そっと、その開かれた唇に触れたい衝動に駆られる。耳を澄ましてみるが、まだ誰かが保健室に近づいてくる気配は感じられない。
 当麻の眠る顔。今度はそっと指でその口元を辿ってみる。指先に呼吸が感じられて、体に甘い何かが走り抜けて行く。ふんわりと当麻の汗の匂い。
 もう一度、当麻の唇に近づいてみる。
 ほんの少しだけ、当麻の体温を掠め取ってみて。
「・・・う・・・ん・・・」
 部屋の中を吹き抜けていった風に体温を奪われた当麻が、小さく身じろいだ。慌てて体を起こす。遠くからパタパタと足音が近づいてきた。ガラリとドアが開かれ、当麻の着替え一式を抱えたクラスメイトが現れる。
「真田、羽柴の制服持って来たぞ。・・ってお前、顔赤いぞ」
「えっ?気のせいじゃないか?!まだ暑いだけだって!」
思わず早口になって捲くし立ててしまう。
「そーなの?ま、いーけど。じゃ、ここ置いとくな」
「ああっ、う、うんっ。ありがとっ」
人の気配が消えた事を確認して、大きく息を吐く。や、やべー。やばかった・・・。
そうして振り向くと、そこには既に熟睡態勢に入っている当麻。口元は薄く開いたまま。
「この顔はやっぱり見せたくないよなぁ・・・。起こそうかな・・・」
 暫く考えて、やっぱり起こすのは止める。本日のMVPは当麻だから今日はこのまま寝かせてやろう。
カーテンをきっちり閉めて、6限が終わったら直ぐに迎えに来ればいい。
 風邪を引かないように、服だけ着替えさせて。シャツを取り出し、当麻の体を揺すってみる。
「当麻!ほら上のシャツだけでも着替えろよ!・・風邪ひくぞ!!」
力の入らない体を起こして子供の様に着替えさせ、布団を肩まで引っ張り再び夢の住人へと戻してやる。
「おやすみ、また後で」
 額には、そっとキスを落として。


Fin








気のせいじゃないよ、顔赤いですよ、真田さんー!!
かわいー!かわいー!!かわいぃー!!!
何気に「ああ、当麻が征さんの体操服着てる。征さんのニホヒに包まれている」とか思ったことは、今は避けとく(殴)
大事なところで当麻に信頼を置く遼ちんっv
当麻は・・・まぁ昼飯かかってりゃ頑張らいでかっ!なのかもだが、兎に角遼ちんにしっかり答えてくれるいい男っv
そしてふたりの阿吽の呼吸ーッ!!!
目と目で通じ合うなんてモンじゃありません。飛んでもはっぷん、歩いてじゅっぷん。
このふたりはまさに以心伝心〜♪♪カッコイー!!!
素直に気持ちを表して当麻を軽々と抱えちゃう遼ちんとかね、
それに赤い顔しちゃって屁にもならない抗議をする当麻とかねっvv(屁って・・・;)
慣れた手つきで当麻をおぶっちゃう真田と、それに普通に身体を預けてる羽柴とかね・・・!!
どうなの、どこもかしこも私の触手を揺さぶってくれてるんですがッ!?(触手!?)
「ん?平気だよ、当麻軽いし。いつもの事だから慣れてるし。ありがとな」
真田。こら、真田。「ありがとな」なんて言いながら、実はクラスメイトに牽制してますね、アナタ!
触んじゃねーよ俺んだよオーラがプンプン匂っているのは、私が腐っているからですかーッ!
そしてかわいいのが、この後っvvv
眠る当麻を眺める真田さんのお顔は、蕩けそうなんでしょうなぁ〜vvvvv
って、弟かよ!!!
とまぁ、ここは一応突っ込んどくべきでしょう、ええ。
でもいいの。いいのよ。そんなアナタがかわいいの、遼。
そんなマヌケなことをいいつつ、頂くところは頂いてしまう、そんなアナタが好きよ、遼――!!
ふたりっきりの静かな午後の保健室で、爽やかな風の中の遼ちんのドキドキが・・・・ッ(悶)
かわいすぎるー!!
きっと、6限終ったら飛んでくるんでしょうねーvvv
もう一回くらい掠め取ってから起こしてくれても全然いいよ、遼!
その顔は、間違いなくキミだけのものさー!!!!
ああもう、れんさんたらっv
遼当だよ、遼当!(わかってるってば)しかも遼ちんのこの当麻を独占したい魂ったらvvvv
嘘みたーい!嬉しいよーぅ!!!
ほんとにほんとに、有り難うございますー!!!!




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