たからもの:021


 桜花
 雪月陽朔 様



「当麻と桜が見たい」

と、いう遼の言葉のおかげで俺と遼は今、満開の桜の中に立っていた

正直、俺は乗り気では無かった

あの戦いの終わりに見た花だからなのか?

いつのころからだろうか

桜という花に対する苦手意識が俺の心で生まれていた

どうして・・・

どうして 遼は桜が見たかったのだろう?

そして 俺と来ることを望んだのだろう?

風が俺の頬をやさしく撫でる

まるで今浮かびかけた疑問を俺の中から運ぶように

それと同時に、桜の花びらが舞い散る

春風に揺られて花弁を撒き散らす桜は

とても儚く 美しかった

さっきまで並んで歩いていたのに 

いきなり立ち止まった俺を置き去りにして

いつのまにか 俺の前に遼がいた

風に身を任せて 舞い散る桜と戯れる遼の姿は 

とても美しかった

けれど・・・

それは どこか儚くて 桜と似通って見えた

側によって抱きしめれば 桜の花びらとなって消えてしまいそうだった

強く 脆く 儚く 美しく・・・・・

可憐に咲き誇る桜という花は 愛しい人ととてもよく似ていた




薄く けれども確実な闇に支配された部屋

窓の外からの微かな光に照らし出された室内

そのなかで ふと目を覚ますと 隣に寝ているはずの遼の姿が無かった

落ち着いて辺りを見回すと僅かに開いたベランダの窓が

少し冷たい風と共に薄桃色の花弁を部屋の中に送り込んでいた

その先に先刻乱れた浴衣を着直して1人バルコニーに佇む遼を見つけ

俺は静かに体を起こした

夜の闇に浮かび上がる 薄桃色の花びら

艶やかで美しい桜

昼間とはまた違う・・・桜の姿

それを見つめて

気持ち良さそうに風を感じながら微笑する遼

まるで 遼の居る場所だけ別の世界のようだった

俺に気づきこちらに歩を進めながら微笑む遼の横顔は

妖艶で・・・・・


桜も遼も昼とは違う美しさを持って

俺を魅了した



昼間は可憐で美しく

夜は艶やかで美しい

そのさまを遼と重ねる

手を重ねて 腕を絡めてくる恋人は

傍に居るのに 存在が希薄に見えてくる

それもまた 桜の花の儚さに良く似ている

たまらずその存在を腕で引き寄せると

驚いたように顔を上げる

唇に深く口付けると

その希薄さは消えた



舞っている桜の花弁を捕らえようとしているかのように

俺の腕からいとも簡単にするりと抜けていってしまう

風のように気まぐれな愛しい人は

この舞い散る桜を見て 何を思うのだろう?

俺に 何を見せたかったのだろう?


                                    END





言ってみるもんです、ええ。
BBSでちょこっと「見せてくださいよー」と言い、メールでこそっと「頂いちゃって良いのでしょうか」なんて言っちゃったら、なんと本当に頂けてしまったのですっ!(爆)
無遠慮でスミマセン;
しかし、言ったモン勝ちとはまさにこの事かと!!

タイトルを見てくださいよーぅv
緋桜花にちなんで『桜花』!!
ああもう、いいのでしょうか、こんな勿体ないことをvvv
そしてこの内容。
儚く見えてしまう遼ちゃんだけど、でもその瞳にはとても強い光があって。
触れて安心する羽柴っ!このっ、このっ(笑)
遼ちゃんの方は・・・どうなんでしょうね
「俺はちゃんとここにいるよ」
とでも羽柴に伝えたかったのでしょうか。
だとしたら、そんな小技を使っちゃう遼ちゃんにも益々ドキドキじゃなーいv

陽朔さん、有り難うございましたvvv




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