たからもの:005


 【 月 】
 ピロ 様



どんなに曇っていても 

雲の陰には冴え冴えとした月がある

その事に想いを馳せる者は多い

しかし姿すら見えない新月の存在は 無いに等しい

誰がその存在を想うのだろうか?





女が絡まれている

気の毒だとは思ったが

こんな所で問題を起こしてる場合じゃねえ

それでなくても目を付けられてる

ほっときゃ、どっかのヒーロー気取りが助けるだろう

俺はサンジの視界を体で遮り、そのまま通り過ぎようとした

「おい、綺麗なお姉さまが絡まれてるぞ!」

どうして、こいつはこんなに鼻が利くんだ

俺の体を押しのけて すでに女の所に馳せ参じている

「ヒーロ気取りはお前かよ・・・」

仕方ねえ、俺は高見の見物を決め込んだ

どうせ鼻の下伸ばして帰ってくるんだろうしな

案の定、相手の爪先を踏みつけて膝蹴り一つでケリをつけ

お礼に頬にキスしてもらって上機嫌で戻ってくる

「そんな事してると今に足元掬われるぞ」

浮かれているサンジに言ってやる

「掬われる…どういう事だ?」

怪訝そうな顔をした後、ニターっと笑った

「なんだ?やきもちか?」

俺の顔を覗き込んだ

「馬鹿か?やきもちなんて誰がやくか!」

「ふうん」 つまらなそうに言うと煙草に火をつける

「ま、そりゃそうだ」

紫煙を追って遠い目をする

何を見ているのかと視線を追ったが

そこには薄い白い月があるだけだった





それからも特に変わった所なく毎日を過ごしていた

少なくとも俺はそう思っていた

すれ違いざまに用を思い出し サンジの腕を掴んで呼び止める

「向こうで皆・・・」

掴んだ手が払い落とされた

「離してから喋ってくんねえか?」

「あぁ、わりい・・・皆が探してたぞ」

「わかった、後で行く・・・それから、あんまりベタベタ触るな」

「んだと!俺が何時・・・」

咆えか掛かろうとした瞬間に、サンジが踵を返す

「甘ったれるんじゃねえ」

誰に向かって言ってるんだ?俺か?

甘えたつもりなど毛頭ない

何が起こったのかわからずに ただ サンジの背中を見ていた





気を付けて見れば

誰にもわからないように 俺を拒否してやがる

されてる本人も気付かなかった

周りの奴らじゃ分かるわけねえ

気付いて欲しいのか 欲しくないのか

それさえ俺にはわからねえ

今更 かける言葉はみつからない





「言いたい事があるならはっきり言え」

俺には察してやるなんて器用な真似はできねえ

結局サンジを捕まえて問い詰めることになる

精神力は鍛えてきたのに こんなに脆い所があるとはな

『最強になる』 が聞いて呆れる

それでも

脆い自分を晒してでも サンジの本音を聞きたかった





「言いたい事?」

「てめえ、俺を避けてるな」

「別に避けてねえだろ、なに自惚れてんだよ」

「うるせえ、いくら俺でも態度がおかしい事くらい気が付く」

いきなり両肩を掴まれキスをされた

目を閉じそうになって我に返る

慌ててゾロを突き飛ばし 唇を拭った

その様子を見てゾロが自嘲(わら)う

「はっ、見ろよ  これのどこが避けてないだ?」

「キスする必要なんてねえだろ!」

「言え、お前を見てるんだ 誤魔化しは利かねえ」

普段は素知らぬ振りなのに 痛いくらいに切り込んで来る

それでも自分を晒すわけにはいかなかった

暫く睨み合った後 

「勝手にしろ!」 今度はゾロが踵を返す

「勝手にするさ」 遠去かっていく背中に呟く

咥えた煙草は苦味ばかりが気になった



ゾロの側には近寄らない

「甘ったれるんじゃねえ」 あれは自分に言った言葉だ

側に居れば期待する

『惚れてる』 なんて邪魔なだけだろう

だから、隣にいる事が当たり前になる前に

命を賭して闘う時に 送り出せなくなる前に

自分の想いにケリをつける

心が軋むこと位 なんでもないと言い聞かせた




サンジを問い詰めてみても そこには沈黙しかなかった

果たしてそうか?

本当に何も無かったか?

わからねえ…確かに何か、何かを感じた

沈黙に業を煮やして背中を向けたが

あいつは一度も視線を外さなかった

その強さの裏に何がある?

言わないのなら 触れてみるしかねえ

俺はもう一度サンジの元へ向う





「まだ、なんか用か?」

サンジが一歩退いた事が 冷静さを打ち崩す

「用が無きゃ顔も見れねえのか?」

捕まえて脚を引っ掛け 床に転がす

「わりいな、他に方法がわからねえんだ」

俺はサンジを押し倒した

「馬鹿だからな、どんなに嫌かわからせてくれ」

抑えつけて耳元で囁く

「ふざけるな!こんな事で何がわかる!」

「少なくとも触られるのも嫌かはわかるだろ?」

噛み付くようにキスをして

抑えつけていた手でシャツのボタンを引き千切る

拒絶される前に奪ってしまえ・・・そんな思いが俺を駆り立てた

暴れるサンジを捻じ伏せて 早急に体を拓いていく

『どんなに嫌かわからせろ』 そんな事を言ったくせに

『嫌だ』 なんて聞く気はサラサラなかった

手足をきつく拘束し、舌で指で思うように嬲っていく

尖った胸に 喉元に 強く歯を立て

殺しきれない声を上げさせた

「嫌じゃねえだろ?」

わからせたつもりでサンジに問う

「好き勝手やってんじゃねえ!」 サンジの膝が俺の背骨にHITする

呻く俺を 今度はサンジが抑え込んだ




「てめえ、俺がどんな想いで・・・」

怒りで奥歯が鳴る

「都合の良い時に居りゃあいいような態度の癖に・・・なんで今更!」

「都合の良い時?」

「てめえが犯りてえ時だ!その時だけ応えりゃ満足なんだろ」

俺の下で確かに脈を打ってるくせに 指一本動かさない

ただ、黙って俺を見ている さっきとはまるで別人だ

「はん、図星か?」

答えられないのが答えだろ?

「それが本音か?」 ゾロが呟く

俺の言葉を受けて ゾロの目が真摯な色を帯びる

「だったら 今 手ぇ出したら証しが立てられねえからな」

自制が利かないのはお前のせいだと思ってた

確かに甘えてるのかもしれねえ

だから耐える と

「お前、俺に甘えてんのか?」

「だろうな」

側に寄るように手招きされ

いつぞや女にキスされた場所に 唇を重ねられる

「大抵の事は許容範囲だ、こんなこと位で妬いたりしねえ」

いちいち妬いてたら身が持たねえ、だけど

「俺を拒む事だけは許せねえ」

究極の我侭だ

「で、なんの証しを立てる気だ?」

「お前に惚れてる・・・欲しいって言われるまで我慢すりゃあいいんだろ?」

不器用なくせに 核心を突いてきやがる

「仕方ねえな、お前はそこで証とやらをを立て見せろ」 

手は俺が出してやる



ゾロを脱がせながら笑いが零れる

「てめえ、笑うな・・・恥ずかしいだろ」

動かすなと言われた手が 行き場を失くして握り拳を作る

この馬鹿の中にも 『惚れる』 という感情があるらしい

俺の想いも 大事にしてやってもいいのかもしれない





ゾロは想う サンジは月のようだと

時に惜しげも無くすべてを晒し

時にその存在のすべてを闇に隠す

どんなに包み隠そうと

その覆いを取り去るだけの力を持ち

自ら姿を隠しても

その存在を信じてやりたい





サンジは想う ゾロは月のようだと

時に雲がかかり おぼろげで

時に風さえ切り裂く鋭さを見せる

どんな時にも迷う事なく

その背中を見据えられる強さを持ち

諸刃の刃となろうとも

その強さを信じてやりたい





弱い自分を晒して 初めてサンジの心に指先が触れる

弱い自分を隠して 初めてゾロの指先が心に触れる



出来るなら

お前が浮かぶ空ごと抱きしめてしまいたい

雲も 風も 星も そして孤独も

お前を包むすべてをこの胸に・・・



そして 今 己に課していく

信じきれる強さを 手に入れる事を





END




またもや頂きました、ピロ様の小説ですっ!
此方は、ピロ様のサイト『Pico Pico』にて、
聖が目出度くも1000のキリ番を踏み抜いた証でございますv
はい、今回の聖が出させていただいたリクエストとは、ズバリ・・・・・

漢!!
漢らしい二人を見たい!
受け受けしいよりは、攻め攻めしく!


はぁ、全くねぇ、大記念である1000リクだというのに、
聖が踏んでしまってあたふたしたあげくに、コレですよ(自爆)
でも、たったこれだけの言葉でピロさんたら
こんなに素敵なゾロとサンちゃんを書いてくれたのですvv
最後の最後に、聖の理想が凝縮されていますねっv
失ったときが怖いから。
失いたくないから。
それは、とても弱くて強い感情。
ああ、ほんとに。ピロ様の書くこの二人は、
いつも同じ強い強い力で惹き合ってて、とっても素敵ですv

有り難うございました、ピロリン様vvv





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